2015年 10月 27日
la théorie セオリー |

日本語でもフランス語でも英語でも、言語の問題はさておき、知り得た情報を今度はどのように活用するのかが重要です。「情報そのもののままでは価値はない」という場所から脱しなければ、せっかく情報を入手した意味がないということです。ゼロとまでは言い切れませんが。
ということで、ここではレストランでの料理に限定してお話ししたいと思います。ビストロやブラッスリーというカテゴリーの料理ではなく、あくまでアッパークラスの Restaurant の料理です。ガストロ系のお店で供される料理の事です。
昨今のこのジャンルの料理には大きな変化が起こっております。ここで殊更強調するまでもなく、フランス料理がその絶対的地位を失いつつあるということです。’90年代後半のエル・ブジの台頭からNOMAの隆盛、アングロサクソン系メディアの攻勢にフランスが完全に気圧されている感じです。
そういった状況を踏まえたうえで、表題の「セオリー」を、レストランの料理を構成する上でどのような位置づけとするか?その必要性と、鑑みるべき理由とは?少し掘り下げてみます。
そもそも、セオリーとはなんでしょう。私はフランス料理で言えば、その基本的な部分だと思います。その中心理論は「食材の組み合わせ」と「調理法の整合性」です。何故この素材とこれを合わせるのか?何故この加熱法なのか?時代や地域の特性を除けば、これは世界的にもある程度共有できるものです。
例えば、子羊の背肉はロゼ色にロティするのが一番美味しいと感じる人が圧倒的多数でしょう。しっかり火の入った背肉を好む方も当然一定数はいるはずですが、少数派だと思います。そこに赤ワインのこってりしたソースが美味しいと感じる人も一定少数いるものですが、骨や屑肉からとった出汁をベースにしたソースの方が美味しいと感じる人が多数だと思います。合わせるハーブはタイム、ローズマリー、バジル、ミント(日本ではこの組み合わせは馴染みが薄いようですが・・)を選ぶ人が圧倒的に多いと思います。これは仔羊料理の一つの基本的な「セオリー」です。
これが山のようにあるのがフランス料理の基本的な部分だとしたら、これは必ず知っておかなければいけない部分です。間違いの少ない最低限の美味しさ を担保してくれるからです。そしてこの地点は、その先への出発点となります。ここがしっかり安定していればこそ、その先のリスクを承知でチャレンジが出来るわけです。とは言え、最近は無関係になりつつあることもまた事実ですが、継続には大いに疑問符が付きます。このカタチから逸脱した場合、兎角 流行をすくい続けるとう手段しか残らないため、そうするしか他に手段がなくなった挙句、そうすることが自分の中で自然に正義となってしまう というパターンに陥るわけです。目の前にある道が一本ならば、そこを通るしか他に道はありません。戻ろうにも、基本的な部分や基本を知らなければ、迷い子になるのがおちなんですね。つまりは「より多くの手段を持ち得る」という、生き抜くためのツールでもあるわけです。
事程左様に、自由になるために自由に振る舞うのは明らかな誤謬なわけです。
これは当たり前のように思えて、忘れがちなことです。些末なことのように思えて、その実極めて重要なことでもあります。
こういうことを書くとまた批判を受けそうですが、フランスからそのままを輸入してくれた世代の方々の苦労があってこそ、我々の現在があるのですが、その世代の方々は今、料理が当時と殆ど変わらない≒変えられないというジレンマの只中で苦しんでおられる方々が多くいらっしゃいます。その方々は他に手段を持たないがために、そうするしかなくなっている。というのが、現状認識としてはおそらく正しく、それは我々の世代の数十年後にも当てはまる可能性はかなり高い。
で、何が言いたいかというと、その場合の基本的な部分とは一体何なのか?ということです。よく「基本が大事」とは言いはするものの、その「基本」の実体については、実はほとんど誰も言及していません。私が考える「基本」というものが全てを覆えるような高尚なものだとは思いませんし、それが正しいのだと言い切ることも憚られますが、フランスでの勤務経験のない私が、ある一定の評価を幸いにも(ウルサイ)お客様から頂けているのは、その基本的な部分と基本の正当性としては十分だと思います。先日はベルギーの食評論家の方からもお褒めの言葉を頂きました。まぁ、社交辞令半分だとしても、しっかり強めの批判もセットで頂いたので(笑)、自分の思うフランス料理の基本とその部分も、あながち間違ってはいないと自信を持てた瞬間でもありました。
ですから、基本的な部分がしっかりしてしていれば、フランスでの勤務経験が絶対必要なもの でもなければ、フランス語がチンプンカンプンでも問題はないという話です。
因みに、敢えて「基本」と「基本的な部分」に分けてコトバを表記したのも、実は深い関係があります。そこに既に気付いている若い料理人の方がいたとしたら、将来有望!!・・・・・・・・・・・かもね(笑)。
写真の料理。貝類とイチジク、フヌイユのムースに、レモンクリーム、トマトのジュレ、エストラゴン。黒い石ころのようなものは、燻製にしたオリーブオイル。これがソース。
by latourelle
| 2015-10-27 01:48